“Phantom Exhibition” 紹介記事(『朝日新聞』)

『朝日新聞』2009年6月5日夕刊に、以下の記事が紹介されました。

「ファントム・エキシビション」展
——踊る感覚 見て追体験

見えないが実際にあるもの……例えば背骨、重力、意識の流れ。こうしたファントム(幻影)をみつめ、世界のからくりを解く。

農業を営みつつ自由な芸術活動を続ける米国ポスト・モダンダンスの中心人物でダンサー・振付家のスティーヴ・パクストンが、ベルギーの映像作家と制作した映像作品「ファントム・エキシビション」を展示した。

会場は四方と天井の5面が大型スクリーンに囲われている。観客はその中で、ダンサーが身体感覚を研ぎ澄ました時に味わう内的世界を、脳で追体験してゆく。

水に浮く人物の映像からは、浮遊感や天地が逆転する感覚が伝わり、体にかかる重力も感じられる。また、人を頭上や足元から映したり、5面のスクリーンを利用し連続した動きを見せたりする事で、踊る身体感覚を想像させる。その視点の変化が面白い。

見えないもののからくりを一つずつ丁寧にひもとく。すると、小さな子どもや動物の自然な動作や、原初的な揺らぎも、彼の言う「ダンス」だと発見できるのだ。

彼は既存の芸術の閉塞感を打ち破る60年代のネオダダやポップアート等の芸術活動と時代を同じくし、ダンスの一時代を築いた。

70年代には他者と触れ合う中で生まれる動きに体を委ねる即興形式「コンタクト・インプロビゼーション」を提唱。これを基に瞑想的な自己探求や合気道などの東洋思想を取り入れ、呼吸や骨、筋肉に意識を集中させ、自身の内部を探求する「背骨のためのマテリアル」に取り組んできた。本展では、コンテンポラリーダンスの源流である彼の世界を体感できる。

ダンサーの身体内部で起こる現象や感覚といった目には見えないものを、CGも交えた映像で伝えようという、メディアの特性を生かした展覧会といえるだろう。
(中村共子・フリーランサー)